業務を自動化する相談では、最初に「いまの手順を教えてください」とお願いします。ところが、手順が文書になっている業務は多くありません。あるのは、前任者が録った動画マニュアルや、担当者の画面操作の録画、口頭での引き継ぎです。frectas は、自動化に入る前に、動画や録画から業務を手順書に起こす ところから始めています。
物流・運輸の会社の伴走支援では、月次の実績集計を自動化する前に、社内の動画マニュアルを音声の文字起こしと2秒ごとの画面の切り出しで読み解き、手順書に起こしました。この記事では、その進め方と、録画を頼むときのお願い、画面に映る個人情報の扱い、手順書の書き方をまとめます。
この記事の数字は、frectas の案件の記録(検証の記録)によるものです。
なぜ自動化の前に手順書を作るのか
動画マニュアルは、見ればやり方は分かります。しかし、自動化するには次のことが文章になっている必要があります。
- どの値を見て、どう判断しているか。 担当者は画面を見て一瞬で判断していますが、動画にはその根拠が映りません
- 例外のときに何をしているか。 動画マニュアルはふつう、うまくいく場合しか録られていません
- 作業の前後で何が変わるか。 どのファイルのどの部分が更新されたかは、動画を見ても分かりにくい
手順書にすると、自動化できる範囲もはっきりします。ある手順は決まったルールで書ける、ある手順は AI に任せられる、ある手順は人の判断として残す、と分けられるからです。手順を書き出した結果、生成 AI を使わないほうがよいと分かることもあります。業務ごとに AI を使うかどうかを分けた判断は「物流・運輸の定型業務を AI 化した記録」に書いています。
動画から手順書を起こす流れ
frectas では、動画マニュアルや画面録画を次の順で読み解きます。
- 音声を文字起こしする。 説明の言葉に時刻を付けて書き出す
- 一定の間隔で画面を切り出す。 切り出した画像にも時刻を付ける
- 時刻で突き合わせる。 「ここで◯◯を開きます」という説明と、そのときの画面を並べ、どの画面で何を操作したかを特定する
- 操作と判断を1行ずつ書く。 1行に1つの操作を書き、判断が入る行には、何を見てどう決めたかを書く
- 担当者に確かめる。 書き出した手順を担当者に見てもらい、抜けている判断や例外を聞き取る
5の確認で、動画には出てこなかった判断が見つかることがよくあります。「この列が空のときは前月の値を使う」「この取引先だけは別のシートを見る」といったルールは、担当者が慣れているほど説明から抜けます。文字起こしと画像から下書きを作っておくと、担当者は白紙から説明するのではなく、下書きの誤りを直すだけで済むので、聞き取りの時間も短くなります。
画面を切り出す間隔の決め方
物流・運輸の会社の案件では、2秒ごとに画面を切り出しました。間隔は、画面操作の速さに合わせて決めます。
- 間隔が長すぎると、操作を見落とす。 メニューを開いてすぐ閉じる、セルに値を入れてすぐ確定する、といった短い操作が画像に残りません
- 間隔が短すぎると、読む手間が増える。 画面が変わっていない画像が大量に並び、突き合わせに時間がかかります
- 説明の言葉の区切りも手がかりになる。 「次に」「ここで」などの言葉の時刻の前後は、細かく切り出して確かめます
切り出した画像が多すぎるときは、前の画像との差が小さいものを除くと、画面が変わった瞬間だけが残ります。逆に、マウスの動きだけで画面が変わらない操作(ドラッグで範囲を選ぶなど)は、差では拾いにくいので、音声の説明と合わせて確かめます。
録画を頼むときにお願いすること
これから録画していただく場合は、次のようにお願いしています。
| お願い | 理由 |
|---|---|
| 声に出して説明しながら操作する | 何を見て判断したかが音声に残る |
| うまくいく場合だけでなく、例外の場合も録る | 自動化で手直しが残るのは、たいてい例外の処理 |
| 作業の前と後のファイルを保存しておく | 何がどう変わったかを、動画ではなくファイルで確かめられる |
| 画面全体を録る | 別のウィンドウや別のファイルを見て判断していることがある |
| 通知やチャットの表示を切る | 関係のない情報や個人の連絡が映り込まない |
| 作業の指示書やメモがあれば一緒に渡す | 動画で省略された前提を補える |
「作業の前と後のファイル」は、とくに大事です。同じ会社の週次の債権レポートでは、作業の指示書、作業の動画、作業前後のファイル一式を分析してから設計しました。前後のファイルを比べた結果、変更は入力ファイルの値と前週からの機械的な延長だけで決まると分かり、AI の推論を使わない確定的な処理にしています。動画だけを見ていたら、担当者が毎回判断しているように見えて、AI に任せる設計にしていたかもしれません。
画面に映る個人情報と同意
業務の録画には、取引先の名前、金額、従業員の名前、メールの本文などが映ります。録画と解析を頼む前に、次を確かめます。
- 目的を伝え、扱える範囲を確かめる。 録画する担当者には、自動化の検討のために使うことを伝えて了解を得ます。画面に映る取引先や従業員の個人情報は、社内の個人情報の取扱いの規程と、取得したときの利用目的の範囲で扱えるかを確かめます。外部の会社(frectas を含む)に渡す場合は、業務の委託として、秘密保持や取扱いの条件を契約で決めておきます
- 映さずに済む方法を先に考える。 検証用の環境や、架空のデータで操作できるなら、それがいちばん安全です
- 映ったものは隠してから渡す。 実データでしか再現できない場合は、個人名や取引先名が映る部分をぼかしてから渡していただくか、社内の環境の中で解析します
- 外部の AI サービスに送る場合は条件を確かめる。 文字起こしや画像の解析に外部のサービスを使うなら、送ったデータが学習に使われないか、どこの国に・いつまで保存されるかを確かめます。顧客のポリシーで使えないサービスがあれば、それに合わせて選びます
- 保存場所と削除の時期を決める。 動画と切り出した画像は、手順書ができたら役目を終えます。いつ削除するかを最初に決めておきます
手順書の書き方:入力・判断・出力・例外
手順書は、1つの手順ごとに次の4つを書きます。
| 項目 | 書くこと | 例 |
|---|---|---|
| 入力 | 何を見るか(ファイル・画面・メール) | 前月の集計ファイルの「実績」シート |
| 判断 | 何を基準に、どう決めるか | 区分の列が空なら、前月と同じ区分を使う |
| 出力 | 何をどこに書くか | 管理シートの該当月の列に転記する |
| 例外 | 判断のルールに当てはまらないとき何をするか | 前月にもない区分なら、担当者に確認して手で入れる |
書き方のこつは3つあります。
- 判断は「なんとなく」を残さない。 「おかしければ直す」ではなく、何がどうなっていたらおかしいのかを書きます
- 例外は、頻度と対応を書く。 毎月起きるのか、年に一度なのかで、自動化するか人に残すかの判断が変わります
- 図より文章を優先する。 業務フローの図はあとで描けます。最初は、判断の根拠が文章になっていることを優先します
手順書から、AI に渡す仕様書へ
物流・運輸の会社の月次の実績集計では、手順書に起こしたうえで、担当者が頭の中で持っていた判断のルールを仕様書に書き出し、AI にはその仕様書を渡しました。実行のきっかけと最終確認は人が行います。
自動で出した結果は、人が手で作った既存の正解シートと突き合わせ、全項目が一致することを確かめました(PoC 実測)。正解シートとの照合ができたのは、手順書の段階で「何を入力に、何を出力するか」が決まっていたからです。出力の形が決まっていれば、人が作った過去の結果がそのまま正解になります。
手順書は、自動化の設計図であると同時に、検証のための物差しにもなります。何を自動にし、何を人に残したかが文章で残っていれば、担当者が変わったときの引き継ぎにも使えます。
よくあるつまずき
- うまくいく場合の動画しかない。 例外は動画に出てこないので、手順書の下書きを見せて「このとき、こうならなかったことはありますか」と聞き取ります
- 担当者ごとにやり方が違う。 どちらが正しいかを決めてから自動化します。決めずに作ると、片方の担当者の手直しが残ります
- 手順書を作ったまま更新しない。 自動化した後に業務が変わると、手順書と仕組みがずれます。仕組みを直すときに手順書も直す運用にします
現場に入って業務を一つずつ手順にし、自動化まで進める進め方は「FDE とは?」に、案件の全体は事例「物流・運輸の会社の定型業務を、現場に入って一つずつ AI 化」に、支援の内容は「FDE 型の伴走支援」にまとめています。
動画マニュアルや口頭の引き継ぎしかない業務を、自動化の前に手順として整理したい方は、お問い合わせからご相談ください。業務の名前と、いま手元にある動画・資料の種類を教えていただければ、手順書に起こす進め方と、録画をお願いするときの段取りをご提案します。