物流・運輸の定型業務を AI 化した記録:全部 AI にしない判断

物流・運輸の会社で、月次の実績集計・債権レポート・請求書の仕分けなど部署ごとの定型業務をAI化した記録。生成AIを使う業務と使わない業務をどう分けたか、判断の基準と設計の中身を実例で解説します。

(2026年10月17日更新)

物流・運輸の会社で、複数の部署の定型業務を一つずつ AI 化してきました。振り返って一番大きかった判断は、全部を生成 AI にしなかったことです。そのうち、週次の債権レポートは AI の推論を使わない確定的な処理にし、請求書メールの仕分けは人と仕組みで分担しました。生成 AI を使ったのは、形式がばらばらな文章から情報を探す・要約する・下書きを作る、といった AI が得意な部分です。この記事では、業務それぞれで何を考え、どう作ったかを、判断の基準とあわせて記録します。

この記事の数字は、frectas の案件の記録(検証の記録・顧客への報告)によるものです。

業務の一覧

対象は複数の部署です。支援は2026年に始まり、2026年9月時点で複数の業務が稼働し、一部は検証中です。

業務 導入前 方式 効果(区分)
月次の実績集計 実績データと運行スケジュールを突き合わせ、区分別の管理シートへ手で転記・照合する毎月の手作業 判断のルールを仕様書に書き出して AI に渡す。実行のきっかけと最終確認は人 作業時間を約50%削減(顧客報告記載)。人が作った正解と全項目が一致(PoC 実測)
契約上の控除の確認 毎日大量に届く形式のばらばらなメールから、請求書を確認するたびに関連メールを手で探す メールをためておき、請求書を受け取ったときに AI が関連メールを探して抽出・分類 1日100分超の作業削減(見込み・検証中)
費用の証憑整理 毎日届く請求書メールの添付を、対象ごとのフォルダに手で整理 ラベル付けは人、フォルダへの振り分けだけを自動化(生成 AI は使わない) 仕分け作業が半減(顧客報告記載)
ニュースレターの週次要約 毎回2.5時間ほど AI で抽出・要約・タグ付け 作成時間を約40%削減。担当者の体感では作業量が3分の1ほど(顧客報告記載)
市場分析レポート(集計) 貿易統計の分析が担当者の経験頼み 大きな統計データを集計できる仕組み+AI による解説文 定量の記録なし(属人化の解消)
市場分析レポート(執筆) 汎用の生成 AI では精度が足りず、アイデア出しから執筆まで時間がかかる 社内の執筆・校正ルールを組み込んだ AI で下書き 定量の記録なし(新しい切り口の分析)
週次の債権レポート ファイルを開くだけでも時間がかかり、作業全体で毎週数時間 AI の推論を使わない確定的な処理 全工程が数秒の処理で完了し、手作業の完成品と全項目が一致(顧客報告記載。実ファイルでの確認を継続中)
採用状況の集計 採用管理の SaaS から CSV を落とし、選考の進捗表を毎週手で更新(API 連携は不可) CSV のダウンロードは手作業のまま、アップロードするだけで可視化 定量の記録なし(打ち合わせで状況をすぐ確認できる)

週次の債権レポートの「数秒」は処理の時間、「毎週数時間」は導入前の作業の時間です。削減率としての記録はないため、ここでも換算はしていません。

生成AIを使うかどうかの判断基準

これらの業務を作る中で、生成 AI を使うかどうかを次の3つの質問で判断するようになりました。

質問 「はい」なら 該当した業務
同じ入力から、同じ結果が出るべき業務か AI の推論を使わず、確定的な処理にする 週次の債権レポート
AI の出力を後から確かめる正解が、別にあるか AI の精度が多少低くても使える 契約上の控除の確認(請求書側に正解がある)
入力の形式がそろっているか そろっていなければ、AI に任せず人と分担することも考える 費用の証憑整理

この基準ができたきっかけは、これらとは別に作り直した週次のキャパシティ集計でした。もともとは「生成 AI に生データを読ませて、都度 Excel を作る」方式でしたが、次の問題が出ていました。

  • 同じ処理をしても、結果が毎回変わる
  • 分からないところを推測で埋め、誤りに気づけない
  • 入力が途中で切り詰められても、出力にはそれが現れない

そこで、確定的な処理で集計し、解決できないものは「要確認」と明示する方式に作り直しました。集計のように答えが一つに決まる作業に生成 AI を使うと、便利に見えて、誤りが静かに混ざります。

業務ごとの設計

月次の実績集計:動画マニュアルから手順書を起こす

まず社内の動画マニュアルを、音声の文字起こしと2秒ごとの画面の切り出しで読み解き、手順書に起こしました。担当者が頭の中で持っている判断のルールも仕様書に書き出し、AI にはその仕様書を渡しています。

扱うデータは、数万行を超える実績の CSV です。自動算出の結果は、人が作った既存の正解シートと突き合わせ、人が作った正解と全項目が一致することを確かめてから渡しました。実行のきっかけと最終確認は人が行います。

契約上の控除の確認:取りこぼしが許されるかで方式を選ぶ

控除の根拠になる情報は、取引先から届くメールに埋もれています。方式は2つ考えました。

  • 受信時にルールで判定して記録する: すぐ一覧になるが、判定から漏れたメールは誰にも気づかれない。取りこぼしが致命的になる
  • メールをためておき、請求書を受け取ったときに AI が関連メールを探す: 請求書という正解が手元にあるので、AI の精度が多少低くても、人が見て拾える

比べた結果、後者を選びました。顧客の側でも汎用の生成 AI での読み取りを試して、うまくいかなかった経緯がありました。AI の精度を上げる前に、「AI が間違えても困らない置き場所」を探すほうが早いことがあります。

費用の証憑整理:AI を使わず、人と分担する

請求書メールは形式がばらばらで、AI に対象を判別させるには精度が足りませんでした。そこで、どの対象の請求書かのラベル付けは人が行い、ラベルが付いた後のフォルダへの振り分けだけを自動化しました。生成 AI は使っていません。それでも、仕分け作業は半減したと報告しています。

ニュースレターの要約:AI が得意な仕事をそのまま任せる

購読しているニュースレターから必要な記事を抜き出し、要約し、タグを付ける作業です。文章を読んで短くまとめるのは生成 AI の得意分野で、ここは素直に任せました。作成時間は約40%削減、担当者の体感では作業量が3分の1ほどと報告しています。

市場分析レポート:ルールを AI に持たせる

集計の側は、100MB を超える規模の貿易統計の CSV を扱える仕組みを用意しました。執筆の側は、汎用の生成 AI では精度が足りなかったため、社内の執筆・校正のルールを AI に組み込み、下書きと解説文を作る形にしました。汎用の AI で失敗していた業務でも、社内のルールを渡すと使えるものになります。

週次の債権レポート:AI を使わない確定的な処理

作業の指示書、作業の動画、作業前後のファイル一式を分析した結果、「変更は入力ファイルの値と、前週からの機械的な延長だけで決まる」と分かりました。答えが一つに決まるので、AI の推論は使いません。

難しかったのは Excel ファイルそのものでした。集計ファイルはシート数が非常に多く、開くだけでも時間がかかります。既存の Excel ライブラリで開いて保存するとファイルが壊れたため、xlsx を zip として開き、変更が必要な部分だけを書き換え、残りの部品は1バイトも変えずに戻す方式を取りました。

全履歴を機械で点検すると、手作業の構造上起きやすい参照のずれが見つかることがあります。自動化の副産物として、既存の資料の点検にも役立つ場面がありました。

採用状況の集計:API がなければ割り切る

採用管理の SaaS は API で連携できませんでした。そこで、CSV のダウンロードは手作業のまま残し、アップロードするだけで選考の進捗を可視化する形に割り切りました。データはブラウザの中だけで処理し、サーバーには送りません。全部を自動にできなくても、手作業を CSV のダウンロードだけに減らせます。

AIを使った業務で気をつけたこと

生成 AI を使った業務でも、AI の出力をそのまま最終の成果物にはしていません。

  • 判断のルールを先に書き出す。 実績集計では、担当者の判断を仕様書にしてから AI に渡しました。AI に「いい感じに」集計させるのではなく、ルールに沿って処理させます
  • 社内のルールを AI に持たせる。 レポートの下書きでは、社内の執筆・校正のルールを AI に組み込みました。汎用の生成 AI がうまくいかなかった原因の一つは、AI がその会社の書き方を知らないことだと考えています
  • 最後は人が確かめる。 実行のきっかけと最終確認は人が行います。AI は担当者の作業を減らす道具で、担当者の代わりに判断する立場には置いていません
  • 使えるモデルは顧客の方針で決める。 モデルの性能だけでなく、顧客が使ってよいと決めているかどうかを先に確かめます

効果の数字の読み方

上の一覧の効果には、区分を付けています。区分によって、数字の確かさが違うからです。

区分 意味 この案件での例
顧客報告記載 顧客への成果報告(2026年9月)に載せた値 実績集計の約50%削減、ニュースレター要約の約40%削減、証憑の仕分けの半減
PoC 実測 検証用のデータで実際に動かして測った値 実績集計で人が作った正解と全項目が一致
見込み 本番に適用した場合の想定 控除確認の1日100分超の削減

「毎週数時間 → 数秒」を削減率に直したりはしていません。数秒は処理の時間で、人の作業時間ではないからです。換算すると見栄えのよい数字になりますが、元の記録にない意味を足すことになります。

数字のない業務(市場分析・採用集計)も、一覧から外していません。属人化していた分析を担当者以外も回せるようになった、打ち合わせの場で選考の状況をすぐ確かめられるようになった、という変化は、数字にしにくいだけで効果がないわけではないからです。

進め方で気をつけたこと

  • 一件ずつ小さく作る: 困っている業務を頻度・時間・データの扱いやすさで並べ、上から順に着手しました
  • 正解と突き合わせてから渡す: 人の作業結果と一致することを示すのが、現場の信頼につながります
  • 顧客のルールに合わせてモデルを選ぶ: 顧客の方針で特定の AI モデルが使えない業務があり、別のモデルで作りました
  • 最終的に置く場所を考える: 検証用の環境で作った複数の PoC を、顧客のクラウド環境へ移す計画と必要な権限を整理しました

こうした進め方は「FDE とは?発注者向けに SES・コンサル・受託との違いを解説」でも詳しく書いています。

学び

  1. 全部を AI にしない。 答えが一つに決まる業務に AI の推論を入れると、結果が揺れ、推測で埋めた誤りに気づけなくなります
  2. AI の精度より先に、置き場所を考える。 後から正解と照らせる場所に AI を置けば、精度が多少低くても使えます
  3. 人の手順を先に文章にする。 動画や口頭でしか伝わっていない手順を書き出すと、自動化できる範囲がはっきりします
  4. 全部を自動にしなくてよい。 ラベル付けは人、CSV のダウンロードは人、と割り切っても、効果は出ます

案件の全体像は事例「物流・運輸の会社の定型業務を、現場に入って一つずつ AI 化」に、支援の内容は「FDE 型の伴走支援」と「小さな業務の自動化」にまとめています。

部署ごとに残っている定型業務を、どれから・どこまで AI にするかを一緒に整理したい方は、お問い合わせからご相談ください。業務の名前と、だいたいの頻度・時間を書いていただければ、AI を使うべき業務と使わないほうがよい業務の見立てをお伝えします。

よくある質問

どんな業務に生成AIを使わなかったのですか?

週次の債権レポートは、入力ファイルの値と前週からの機械的な延長だけで結果が決まるため、AIの推論を使わない処理にしました。請求書メールの添付の仕分けは、メールの形式がばらばらでAIの判別精度が足りないため、ラベル付けは人が行い、その後のフォルダへの振り分けだけを自動化しました。

生成AIを使うかどうかは、何で判断しましたか?

同じ入力からいつも同じ結果が出るべき業務か、AIの出力を後から確かめる正解が別にあるか、入力の形式がそろっているか、の3点で判断しました。同じ結果が出るべき業務にAIの推論を入れると、結果が揺れて誤りに気づきにくくなります。

効果はどのくらい出ましたか?

顧客への成果報告では、月次の実績集計は毎月の手作業を約50%削減、ニュースレターの要約は作成時間を約40%削減、請求書メールの仕分けは作業が半減と報告しています。2026年9月時点で複数の業務が稼働し、一部は検証中です。

まずはお気軽にご相談ください

30分の無料業務診断では、業務の流れを伺い、システムや AI で置き換えられそうな部分と、費用の大まかな目安をお伝えします(内容によっては、後日のお見積もりになります)。「何から手をつければいいか分からない」段階でも大丈夫です。