自治体で議事録AI・AI Q&Aを入れるときの論点:ネットワーク・送る範囲・人の確認

自治体で議事録の文字起こし、AI Q&A、職員向けのAIポータルを入れるときに決めておく論点を、庁内ネットワーク、外部AIに送る範囲、kintoneの中に入れる方法、AIの出力を人に返す線引きの順に、自治体向けサービスの開発の経験から解説します。

(2026年10月22日更新)

自治体で議事録の文字起こし、AI Q&A、職員向けの AI ツールを入れるとき、最初に決めるべきなのは「どの AI が一番賢いか」ではありません。どのネットワークの端末から使うのか、外部の AI にどこまでの情報を送るのか、職員がふだん使う画面のどこに置くのか、AI の出力を誰が確かめるのか。この4つが決まらないまま製品を選ぶと、導入した後に「庁内の端末からは使えない」「この会議の音声は送れない」と分かり、使われないまま終わります。この記事では、地域の AI サービス事業者が自治体に提供している文字起こし・議事録、AI Q&A、職員向けポータルなどのサービスの開発に関わってきた経験から、導入の前に整理しておく論点をまとめます。

frectas の関わり方

先に、この記事の前提となる frectas の立場を書いておきます。frectas は、地域の AI サービス事業者の開発チームの一員として、2022年からこれらのサービスの開発に関わってきました。サービスによって、主に開発したものと、一部を担当したものがあります。

サービス frectas の関わり
AI Q&A(Web 版) ほぼすべてを開発
職員向けの AI ポータル ほぼすべてを開発
文字起こし(Web 版・PC アプリ版) ほぼすべてを開発
AI Q&A(kintone のプラグイン) 一部を開発
文字起こし・議事録のサービス チームの一員として一部を担当
メールを起点にした業務エージェント 初期の開発を担当

議事録のサービスは、frectas が主に開発したものではなく、チームの一員として一部を担当したものです。また、これらのサービスの効果(削減した時間など)を数字で測った記録は、frectas の手元にはありません。この記事は効果の報告ではなく、開発の中で見えてきた論点の整理です。詳しくは事例「自治体向け AI サービスの開発に、チームの一員として参加」に書いています。

自治体の生成 AI の導入はこれから広がる段階

総務省の調査(2024年12月31日時点)では、生成 AI を導入済みの団体は、都道府県で87.2%、指定都市で90.0%、その他の市区町村で29.9%でした。活用の事例は、回答の多い順に「あいさつ文案の作成」「議事録の要約」「企画書案の作成」「メール文案の作成」です。導入の課題としては、人材の不足、AI が作ったものの正確さへの懸念、導入効果が分からないこと、などが多く挙がっています(末尾の「参考にした情報」を参照)。

議事録は、自治体の生成 AI の使い道として最もなじみのあるものの一つです。一方で、市区町村ではまだ導入済みが3割ほどで、「正確さへの懸念」と「効果が分からない」が課題に挙がっています。この記事の4つの論点は、この2つの課題に、仕組みの側からどう応えるかの整理でもあります。

論点1:どのネットワークの端末から使うか

自治体の情報セキュリティポリシーは、各団体が定めています。一般に、住民の情報を扱う系統、行政専用のネットワークにつながる系統、インターネットにつながる系統、というように、扱う情報によってネットワークと端末を分けて運用している自治体もあります。

外部の生成 AI やクラウドの文字起こしは、インターネットの先にあります。そのため、最初に確かめるのは次のことです。

  • 職員がふだん使っている端末は、どの系統か。 インターネットにつながる系統の端末が別にある場合、そこからしか使えない
  • その端末で、扱おうとしている情報を扱ってよいか。 会議の音声や議事録の下書きを、その系統に持ち込んでよいか
  • 外部サービスの利用に、どんな手続きが要るか。 情報政策の担当課の確認、利用の申請、契約の条件

ここは、製品やサービスを選ぶより先に、情報政策の担当課と一緒に確かめます。開発する側は、「どの系統の端末から、どのブラウザで動けばよいか」が決まってから、画面とつなぎ方を設計します。文字起こしでは Web 版に加えて PC アプリ版も作りましたが、使う端末と環境によって、どちらが合うかが変わるためです。

論点2:外部の AI にどこまで送るか

次に決めるのは、外部の AI に送る情報の範囲です。議事録・AI Q&A・ポータルで、送るものが違います。

使い道 外部の AI に送るもの 確かめること
文字起こし・議事録 会議の音声、文字起こしの結果 公開の会議か、内部の協議か。個人情報や未公表の情報が含まれるか
AI Q&A 職員の質問、回答の根拠にする規程・マニュアル 根拠にする文書は公開してよいものか。質問に個人の情報が入らないか
メールを起点にした業務の自動化 受信したメールの本文・添付 住民や事業者からのメールに含まれる個人情報の扱い

範囲を決めるときの考え方は3つです。

  1. 送るものを、必要な部分に絞る。 議事録の要約に、会議の参加者名簿まで送る必要はありません。仕組みの側で、送る範囲を絞れるように作ります
  2. 契約の条件を確かめる。 入力したデータが AI の学習に使われないか、どの地域で処理・保管されるか、どのくらいの期間保存されるか
  3. 扱いが決まらないものは、送らない側に倒す。 迷う会議は、文字起こしを使わずに従来の方法で記録する、という運用も選べるようにしておく

開発したサービスでは、音声認識に Azure、文章の生成に OpenAI や Claude のモデルなど、用途によって外部のサービスを使い分けています。どのサービスに何を送るかは、サービスごとに変わります。自治体の側でポリシーを判断できるよう、どの処理で、どのサービスに、何を送っているのか を説明できる状態にしておくことが、開発する側の責任だと考えています。

論点3:職員がふだん使う画面の中に置く

新しいツールが使われない理由の多くは、「わざわざ開かない」ことです。新しい画面、新しいログイン、新しい操作を覚えるのは、忙しい職員にとって負担です。

kintone の中に AI Q&A を入れる

既に kintone で業務を回している自治体では、kintone の画面の中で使える AI Q&A のプラグインという形がありました。frectas はこのプラグインの開発にも一部で関わっています。職員は、ふだん開いている kintone の中で質問でき、新しいシステムにログインする必要がありません。

kintone の中に入れることには、ほかにも利点があります。

  • 権限の考え方を、既存の運用に合わせやすい。 誰がどのアプリを見られるかの設定が、既に kintone にある
  • 質問と回答を、業務のデータの近くに置ける。 問い合わせの記録や台帳と同じ場所で使える
  • 導入の説明が短くて済む。 「いつもの画面にボタンが一つ増える」で伝わる

一方で、kintone を使っていない部署や、Web のチャットのほうが合う使い方もあります。AI Q&A は Web 版も作り、スレッド形式のやり取り、失敗したときのやり直し、時間がかかったときの表示など、ふだん使いで困らない作りにしました。どちらか一つではなく、職員の使う場所に合わせて入口を用意する考え方です。

用途から AI ツールにたどり着けるポータル

AI ツールが増えると、今度は「どの業務に、どのツールを使えばよいか分からない」という問題が出ます。職員向けの AI ポータルは、職員が用途から検索して、使える AI ツールにたどり着けるサイトです。最初は静的なサイトとして作り、のちに Next.js に移しました。

自治体の課題に「どのような業務や分野で活用できるかが不明」が挙がっていることを考えると、ツールそのものより、ツールにたどり着く道 を作ることにも意味があります。人材が足りない自治体ほど、職員が自分で探して使える状態が助けになります。

論点4:AI の出力は人に返す

4つ目は、AI の出力をどこで止めるかです。自治体の課題の上位に「AI が作ったものの正確さへの懸念」があるのは、もっともなことです。生成 AI は、もっともらしい誤りを出すことがあります。

この懸念に、仕組みの側から応える方法は、AI の出力をそのまま外に出さず、いったん職員に返す ことです。

  • 議事録: AI に作らせるのは下書きまでにし、発言の確認と確定は職員が行う形をおすすめします
  • AI Q&A: 回答の根拠にした文書を一緒に示し、職員が確かめてから使う設計をおすすめします。住民への回答に AI の文章をそのまま貼らない運用にできます
  • メールを起点にした業務の自動化: 受信したメールを決めた手順で処理し、結果をいったん職員に返す。外部への転送は、職員が確かめてから手で行う(frectas が初期の開発を担当した業務エージェントで採った形です)

メールを起点にした業務エージェントでは、AI が処理した内容を外部へ自動で送らない、という線をはっきり引きました。自動で送れば手間はもう一段減りますが、誤りがあったときに取り消せません。特に自治体では、外部に出た文書の誤りは信頼に直結します。AI が速くするのは職員の手元の作業までで、外に出す判断は人が持つ、という線引きです。

この線引きは、効果の説明にも役立ちます。「AI が議事録を作る」ではなく「議事録の下書きを AI が作り、職員は確認と修正をする」と説明すれば、正確さへの懸念と、効果(下書きを一から作る時間が減る)の両方に答えられます。

進め方:小さく試してから広げる

自治体での導入は、次の順で進めると、論点を一つずつ片付けながら使い始められます。

  1. 使い道を一つに絞る。 議事録の下書き、規程についての職員の質問への回答など、まず一つ
  2. ネットワークと送る範囲を、情報政策の担当課と決める。 論点1と2を、この使い道に限って決める
  3. ふだんの画面の中で試す。 kintone のプラグインや、職員がよく開くページからの入口を用意する
  4. 人が確かめる手順と、効果の測り方を決めて試す。 下書きを直すのにかかった時間、回答を確かめるのにかかった時間などを記録する
  5. ほかの部署・使い道に広げる。 職員向けのポータルのような、ツールにたどり着く道をあわせて整える

使い道を一つに絞るのは、論点ごとの判断を具体的にするためです。「生成 AI を使ってよいか」という大きな問いは決めにくくても、「公開の会議の議事録の下書きに、この音声認識を使ってよいか」なら判断できます。

導入の前に確かめるチェックリスト

  • 使う端末は、どのネットワークの系統か。そこから外部のサービスを使ってよいか
  • 扱う会議・文書・メールのうち、外部の AI に送ってよいもの、送らないものを分けたか
  • 契約で、入力したデータの学習への利用、処理・保管の地域、保存期間を確かめたか
  • 職員がふだん使う画面(kintone・グループウェアなど)の中に置けるか
  • AI の出力を、誰が、どこで確かめてから使うかを決めたか
  • 外部への送信を自動にしない線を、どこに引くかを決めたか
  • 効果をどう測るか(下書きの修正にかかった時間、問い合わせへの回答時間など)を決めたか

最後の項目は、frectas の関わったサービスでも、これから事業者・自治体と相談して記録していくところです。効果を数字で示せるよう、導入の最初から「何を測るか」を決めておくことをおすすめします。

参考にした情報

議事録の文字起こしや AI Q&A を、庁内のネットワークやポリシーに合わせてどう入れるかを相談したい方は、お問い合わせからご連絡ください。サービスの内容は「議事録の自動作成・社内 AI Q&A」にまとめています。使っている端末の環境と、扱いたい会議・文書の種類を教えていただければ、送る範囲の整理から一緒に考えます。

よくある質問

庁内のネットワークから、外部の生成AIは使えますか?

自治体ごとの情報セキュリティポリシーと、どのネットワークの端末から使うかで決まります。インターネットにつながる系統の端末から使う、仲介するサービスを通して使う、など方法はいくつかあります。まず、どの系統の端末で、どの情報を扱うのかを情報政策の担当課と確かめることから始めます。

会議の音声や議事録を外部のAIに送ってもよいのですか?

送る情報の範囲を先に決めます。公開の会議の音声と、個人情報を含む内部の協議では扱いが違います。契約上、入力したデータが学習に使われないかどうか、どの地域で処理・保管されるかも確かめます。判断は自治体のポリシーに沿って行い、仕組みの側では送る範囲を絞れるようにしておきます。

AI Q&Aの回答が間違っていたらどうしますか?

AIの回答を職員がそのまま住民に出さない運用をおすすめします。回答の根拠になった文書を一緒に示し、職員が確かめてから使う設計にできます。frectasが初期の開発を担当したメールを起点にした業務エージェントでは、AIが処理した結果はいったん職員に返し、外部への送信は職員が確かめてから手で行う形にしました。

kintoneを使っている自治体ですが、新しいシステムを入れる必要がありますか?

既にkintoneで業務を回しているなら、kintoneの画面の中でAI Q&Aを使えるプラグインとして入れる方法があります。職員が新しい画面やログインを覚えずに済むので、使い始めの負担が小さくなります。

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