業務の AI 化やシステム開発の見積もりを受け取ったとき、総額だけを見ても高いのか安いのかは判断できません。費用は PoC(試して確かめる段階)・本開発・運用と伴走支援 の3つに分けると、何にお金を払っているのかが読めるようになります。さらに、AI を使う仕組みでは、開発費とは別に AI の利用料 が処理する件数に応じてかかります。この記事では、frectas の目安の金額と、費用を決める要素、AI の利用料の見積もり方、そして PoC で止める判断について、実案件の記録をもとにまとめます。
この記事の金額はすべて税抜です。案件の数字は、frectas の案件の記録(検証の記録・顧客への報告)によるもので、それぞれに区分(PoC 実測・顧客への報告に記載・見込み・概算)を添えています。
結論:費用は「段階」と「範囲」で決まる
先に要点を書きます。
- 費用は段階で分けて考える。 PoC で「できるか・見合うか」を確かめ、本開発で業務に組み込み、運用と伴走支援で使いながら直す
- 金額を大きく動かすのは範囲。 置き換える工程の数、つなぐ既存システムの数、人が確認する画面の作り込み、例外の多さで決まる
- AI の利用料は別に見積もる。 1件あたりの費用 × 件数。モデルの選び方で桁が変わる
- PoC は止める判断のためにもある。 合格ラインを先に決めておけば、悪い結果も次の判断の材料になる
frectas の費用の目安
| 段階・サービス | 目安(税抜) | 主な中身 |
|---|---|---|
| 業務システム・アプリの受託開発 | 100万円〜 | 要件の整理、設計、開発、テスト、本番の立ち上げ |
| FAX・メール受注の AI 化の PoC | 50万円〜 | 実際の注文書での読み取り・名寄せの検証、精度と費用の報告 |
| 図面・PDF の読み取りの PoC | 50万円〜 | 実際の図面での抽出の検証、正解との照合、費用の試算 |
| 上の2つの本開発 | 300万円〜 | 確認画面、既存システムとの連携、検証環境と本番環境、運用の手順 |
| 議事録・社内 AI Q&A の PoC | 30万円〜 | 実際の音声・文書での試作、回答の確かめ方の設計 |
| FDE 型の伴走支援 | 月額30万円〜 | 現場に入り、部署ごとの業務を一つずつ AI 化・自動化する |
| 小さな業務の自動化 | 10,000円〜 | スプレッドシート・GAS・Excel の1業務単位の自動化 |
どれも下限の目安で、内容を伺ってお見積もりします。サービスごとの詳しい内容は「システム・アプリの受託開発」「FAX・メール受注の AI 化」「FDE 型の伴走支援」にまとめています。
参考までに、AI の受託開発を手がける会社の解説記事を見ると、PoC は30万〜200万円を目安とする会社、100万〜300万円を想定例とする会社、生成 AI では150万〜500万円が中心とする会社があり、本開発も300万〜1,000万円を想定例とする会社から1,500万円以上とする記事まで幅があります。月額の支援は、アドバイザリーで月10万〜50万円、コンサルティングで月80万円〜という掲載もあり、月10万〜80万円程度と幅があります(末尾の「参考にした情報」を参照)。frectas の目安は、この幅の中で「小さく試して、効いたところから広げる」進め方に合わせて置いています。
段階ごとの費用の内訳
1. PoC:できるか・見合うかを確かめる
PoC の費用の中身は、おおむね次のとおりです。
| 作業 | 内容 |
|---|---|
| 業務の聞き取り | 置き換える作業と、担当者が頭の中でしている判断を書き出す |
| データの棚卸し | 本番で扱うデータの全体像(形式・例外)を機械的に数える |
| 合格ラインの合意 | 何を・何と比べて・どのデータで測り、どの数字なら次に進むかを決める |
| 方式の試作 | 読み取り・抽出・判定の方式を作り、試す |
| 照合と報告 | 人の作業結果(正解)と突き合わせ、精度・費用・難しい箇所を報告する |
PoC の費用で削ってはいけないのは、データの棚卸しと照合 です。図面 PDF から部屋の情報を抜き出した設備メーカーの案件では、1回目の検証を受け取った資料の抜粋だけで行い、数字の信頼性が担保できないと判断して、2回目は本番で扱う図面の全体を棚卸しするところからやり直しました。全体を数えると、1回目の「すべてベクター形式の PDF」という前提が崩れ、スキャン画像だけの図面が混ざっていることが分かりました。抜粋だけで作った方式のまま本開発に進んでいれば、本番で作り直しになっていたはずです。
合格ラインの決め方は「AI 開発を PoC で止めない合格ラインの決め方」で詳しく書いています。
2. 本開発:業務に組み込む
本開発の費用が PoC より大きくなるのは、AI の部分以外に作るものが多いからです。
- 人が確認・修正して確定する画面。 AI の出力をそのまま確定させず、担当者が直してから確定する。業務の中心になる画面です
- 既存システムとの連携。 基幹・倉庫・会計などのシステムへの書き戻し。API・CSV・画面入力の代行など、相手に合わせて作ります
- 取りこぼしと二重登録を防ぐ仕組み。 受け取った原本を先に保存する、処理の状態を持つ、失敗したものを一覧に残す
- 検証環境と本番環境。 本番を立てる前に、検証環境で一通り動かします
- 運用の手順。 止める・戻す手順、権限、障害時の対応
卸売・運送業者の FAX・メール受注の案件では、読み取りから名寄せ、在庫の引当、配車担当の提案、既存の倉庫・運送システムへの書き戻しまでを一つの画面にまとめました。作るものの多くは、読み取りの後の工程と、人が確定する画面でした(事例「卸売・運送業者の受注業務を、注文書の読み取りから配車の提案まで一つの仕組みに」)。
3. 運用と伴走支援:使いながら直す
本番が始まってからも、費用はかかります。
- AI とクラウドの利用料。 件数に応じて毎月かかる
- 保守。 ライブラリの更新、障害の対応、モデルの更新への追従
- 改善。 手直しの多い項目から直す、新しい様式や例外に対応する
物流・運輸の会社の FDE 型の伴走支援では、現場に入り、部署から相談を受けた業務を順に PoC から稼働まで進めています。月次の実績集計では、毎月の作業時間を約50%削減しました(顧客への報告に記載)。一つの業務を作って終わりにせず、効果を報告しながら次に置き換える業務を一緒に選ぶ形です。伴走支援の進め方は「FDE とは?」に書いています。
費用を決める6つの要素
同じ「FAX 受注の AI 化」でも、会社によって見積もりは大きく変わります。金額を動かすのは主に次の6つです。
| 要素 | 費用が上がる方向 | 費用を抑える方向 |
|---|---|---|
| 置き換える工程の数 | 読み取りから登録・配送まで一続きで扱う | 読み取りと照合だけに絞る |
| 入力の様式のばらつき | 取引先・図面ごとに様式が違い、例外が多い | 様式が少なく、そろっている |
| 既存システムとの連携 | 複数のシステムに書き戻す、API がない | CSV の取り込みで済む |
| 人の確認画面 | 現場の運用に合わせて細かく作り込む | 確認と修正の最小限の画面 |
| 精度の要求 | 取りこぼしが致命的で、二重のチェックが要る | 後から人が拾える設計にできる |
| セキュリティと環境 | 顧客のクラウド環境に構築する、外部 AI の利用に制約がある | 標準的なクラウド環境で動かせる |
「精度の要求」は、設計で下げられることがあります。物流・運輸の会社の案件では、メールから契約上の控除に関わる情報を探す業務で、「受信したときに判定して記録する」方式と「メールをためておき、請求書を受け取ったときに AI が関連するメールを探す」方式を比べました。前者は取りこぼすと致命的ですが、後者は請求書の側に正解があるので、AI の精度が多少低くても人が拾えます。同じ業務でも、どちらの方式を選ぶかで、求められる精度と作り込みの量が変わります。
「セキュリティと環境」も見落とされがちです。顧客のポリシーで特定の AI モデルが使えない、PoC は開発側の環境で作り、本番は顧客のクラウド環境に移す、といった条件は、早めに分かっているほど見積もりに正しく入ります。
AI の利用料の見積もり方
AI を使う仕組みでは、開発費とは別に、処理のたびに AI の利用料がかかります。見積もりは次の式で考えます。
月の利用料 = 1件あたりの費用 × 月の件数
1件あたりの費用は、使うモデルと、AI に読ませる量で決まります。実案件の記録から、桁の感覚が分かる例を挙げます。
| 案件 | 1件あたりの費用 | 区分 |
|---|---|---|
| 図面 PDF からの部屋情報の抽出(最上位のモデルでページ全面を読む条件) | 1ページ約0.44ドル | 概算(試算) |
| 建材卸の積算での、図面の窓・ドアの候補の分類(軽量モデルの条件) | 1邸数円 | 概算 |
図面の案件では、安いモデルを前提にした試算と、最上位のモデルでページ全面を読む条件とで、費用の桁が違いました。どの工程にどのモデルを割り当てるかは、方式の設計そのもの です。PoC の段階で1件あたりの費用を測り、本番の件数を掛けて、業務の削減効果と比べます。
また、AI を使わずに済む工程は使わないほうが、利用料も、結果の揺れも減ります。物流・運輸の会社の案件では、入力ファイルの値と前週からの機械的な延長だけで結果が決まる週次の債権レポートを、AI の推論を使わない処理にしました。全工程が数秒で終わり、手作業の完成品と全項目が一致したと顧客に報告しています(顧客への報告に記載。実ファイルでの確認は継続中)。
クラウドの費用も、稼働後に見直せます。卸売・運送業者の案件では、稼働後に本番のデータベースの構成を見直し、障害時の復旧を手動で行うことを受け入れる代わりに、月額を約43,400円から約14,200円に下げる見込みを立てました(請求額から逆算した概算)。
PoC で止める判断
PoC の費用を「無駄にしたくない」と考えると、結果が悪くても本開発に進みたくなります。しかし、止める判断ができることは PoC の大事な成果です。
止める・絞る判断の例
- 効かなかった改善は入れない。 図面の案件では、結果を見直す工程を足すと、処理時間が約28%・費用が約25%増えたのに、結果は変わりませんでした(PoC 実測)。この工程は本番では有効にしていません
- 初めてのデータで崩れた方式は採らない。 図面からの積算の案件では、図形の解析ルールだけで窓・ドアを検出した最初の方式が、方式づくりに使った邸では開口面積の平均絶対誤差16.1%、検証用の邸では81.9%でした(PoC 実測)。この結果から、ルールで候補を出し、画像の分類で誤りを落とす2段の構成に切り替えています
- 範囲を絞って始める。 一部の項目・様式だけが合格ラインを満たしたら、その範囲だけで本番を始め、残りは人の作業のまま改善を続ける
先に決めておくこと
PoC を始める前に、次の3つを発注者と開発側で決めておくと、結果を見てからの判断がぶれません。
- 合格ライン: どの数字なら本開発に進むか。精度だけでなく、人の手間がどれだけ減るか、1件あたりの費用はいくらまでか
- 条件付き合格のときの範囲: どこまでなら一部だけ始められるか
- 不合格のときの行動: 方式を変えるのか、止めるのか。止める場合に報告書に残すこと
費用を抑えるために発注者ができること
- 実物のデータを早めに渡す。 サンプルではなく、実際の注文書・図面・メールを、例外を含めて渡していただくと、見積もりの精度が上がり、PoC の手戻りが減ります
- 正解を用意する。 過去に人が作った結果(入力済みの受注、拾い出し表、作成済みの帳票)があれば、それが PoC の正解になります
- 全部を自動にしようとしない。 人が確認して確定する設計にすれば、精度が完璧でなくても効果が出ます。ラベル付けは人、振り分けは仕組み、という分担でも作業は減ります
- 既製品で足りるかを先に聞く。 業務の範囲が標準的なら、SaaS のほうが安く早いことがあります。frectas では、SaaS で足りる場合はそうお伝えします
見積もりを依頼するときに伝えること
次の情報があると、目安の金額を早くお伝えできます。
- 置き換えたい業務と、いまの手順
- 入力の形式(FAX・メール・PDF・図面・音声など)と様式の種類
- つなぎたい既存システムと、その入口(API・CSV・画面入力)
- 人の作業結果として手元にあるもの(正解になるデータ)
- セキュリティ上の条件(使えないサービス、構築する環境)
- いつまでに、どこまで動けばよいか
参考にした情報
確認日はいずれも 2026-10-17 です。
- AI革命「AI受託開発の費用相場」: https://ai-revolution.co.jp/media/ai-development-cost
- 秋霜堂「AI受託開発の費用相場と PoC コスト」: https://syusodo.co.jp/blog/articles/ai-juchu-poc-small-start-cost
- WEEL「生成AIコンサルの費用」: https://weel.co.jp/media/faq/generative-ai-consulting-cost/
自社の業務で、PoC にどこまでの範囲を入れるべきか、本開発でいくらくらいになりそうかを知りたい方は、お問い合わせからご相談ください。置き換えたい業務と入力の形式、つなぎたいシステムを教えていただければ、段階ごとの目安と、既製品で足りるかどうかをお答えします。